そらへ


それが何を意味していようが、そこに時間が存在し、何かが起き、僅かながらに『ヒトトキ』を感じるものである・・・

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土星に対しては惑星を囲む様に輝く神秘的な環に憧れがあった。

しかし、
その憧れも環が巨大な岩石や氷塊の集まりであることを目の当たりにすると、
絶対的なまでの荒々しさに畏怖せずにはいられなかった。

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驚いた事に大地に降り立つとぼくと同じような雰囲気の人たちで溢れていたが、
ほとんどの人はまだ若い世代の人たちばかりの様に見えた。

面白いことに皆が巨大な望遠鏡を手にとって同じ方角を眺めていた。

望遠鏡からは地球が見え、
心なしか地球の色が赤茶けた色から黒色に変わり行くのが見える。
かつての青い惑星からは想像出来ない光景である。

ぼくは来る日も来る日も望遠鏡を覗き、
生きて行くための唯一の惑星だと思っていた故郷である地球を見続けた。

ありがたい事に、
この星でも我々の食事は保証された。
配給される食事は定期的に、感覚的には六時間毎に、
パッケージにくるまれた荷物が空から落下傘式に個人個人に降って来るのである。

大抵はレバニラ炒め定食やさばの味噌煮等の定食がほとんどであったが
時折そばやうどんと言った麺類の時もあり駄菓子が添えられることもあった。

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食べ終わった後は回収場と書かれた大きな創庫のベルトコンベアに乗せれば良かった。

それにしてもここへ来てからどのくらい地球を眺めていただろうか、
そのうち地球は真っ黒に成り果ててしまった。

しかし、
元々暗闇ばかりに視界を埋め尽くされていたぼくにとっては
それほど大きな衝撃にはなり得なかった。

すると地球から数十名ほどの人たちが大きな宇宙船に乗って土星に避難してきた。
彼らは土星に着たことにえらく感動している様で、
自分たちこそが初めて土星の地を踏んだ人類だとはしゃぎ我々の存在を無視した。

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しかし、
幾日か過ぎて行くと彼らの食料が底をつき我々の存在を無視する訳には行かなくなった。
何故ならば我々には配給される食事は彼らには配られなかったからだ。

すると彼らは権利を主張し、
人間の平等性を訴え秩序を守るためだと言いながら
私たちに配給された食料を均等に分けるルールを強制した。

しかもそのルールを守るために重要なポジションを設置し、
そのポジションごとに我々の食料配給の配分を変えた。
重要なポジションには地球から避難してきた彼らが付いた。

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最初の内は彼らも食料が必要なのだろうと仕方がないと思って見ていたが
彼らは事あるごとに食料の配給量を変えて行き、
次第に住む場所や広さまでがポジションごとに制限される様になった。

そんな日々が続いて行くと我々に二次的に配給される食料は僅かなものとなった。

更に、地球から宇宙船で避難してきた人々が増えると
彼らは我々に食料を自活して増やす為の労働を強いるようになった。

自活する為の農作物や家畜は彼らの宇宙船につまれ運ばれて来た。
彼らの生活は少しずつだが豊かになっていった。

ある日彼らの子供達が近寄って働いているぼくらに言った。

「お前らパパとママいないのかよ?
チャンと塾に行って良い学校に入らないからそういう風になるんだよ!
うちのパパとママもちゃんと良い学校出で会社の役員で年収も凄かったんだぞ!」

子供たちはぼくらに背を向けると
天使の様な笑みを浮かべて元いた環のなかに入っていった。

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ぼくらはそんな無邪気な子供を笑みを浮かべて、
まるでテレビの中に存在する脚色された虚構というドラマの
中の出来事のように眺めていた。

彼らの決めたノルマを達成するには今日もサービス残業をしなければならないだろう。
そんな過酷な労働の中で次第に宇宙を見上げる日々が多くなり、
一人、また一人と我々の中の人々がいなくなって行った。

ぼくも隠しておいた自転車に乗ると、どこか別の惑星を目指す事にした。
眼下には彼らの乗ってきた大型の宇宙船が見えた。

彼らのたくましい生命力の強さと知性。
何となく羨ましくも思えたが、ぼくは今この瞬間を精一杯生きるだけだった……


裏路地小劇場 そらへ 終幕 完









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出前持ちは気前よく自転車を貸してくれた。

せっかくなので、
上野公園で花見でもする様な気持ちで火星にでも行こうかと思った。

自転車を一生懸命こいで行くと何時しか星星のきらめく漆黒の宇宙を疾走し始めた。
思った通りこの自転車は宇宙船だった。

こんなに気持ちの良い感覚を感じたのは何時ぶりだろうか、
何もかもがまだ見ぬ新たな出会いに対して期待と歓びを感じる。

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思えば、かつてのぼくは何時もそんな希望を抱いていた。

でも希望の灯りは絶望的な現在を感じると全てが無意味なものになり得、
変わりようの無い現実に焦りと恐怖だけが強調された。

しかし、既に到底あり得ようも無い現実を目の当たりにした今、
全てがあらゆる可能性に満ち溢れだしたのだ。

自転車の推進力は凄まじく、
あっけないほどに星星の間を滑り抜け火星の大地に降り立つことが出来た。

しかし火星はぼくが思っていた以上にゴミゴミとして汚染されていた。
遠くの方にはキラキラと光る海が大地に広がっていてる。

近くには放射性廃棄物と書かれたドラム缶や巨大な創庫が複雑な街並みを形成し、
その隙間を埋め尽くす様に沢山の死体が無惨に路地の上に転がっていた。

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死体はどれも白い防護服に身を包んでいて破れた服の隙間からは入れ墨をした皮膚や、
焼けただれた皮膚が無惨に覗いている。

人間の生活には必要不可欠と言われている原発が爆発をする事は良くある事であるが、
原発の収束に実際に現場で携わった人々はどうなったのだろうか?
無尽蔵に増殖する放射性廃棄物は一体どこに行ったのだろうか?

そんな景色を見ていると何時しか鼻血が滴り落ちてきた。

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防護手段の無いぼくが、これ以上ここにいる事は死を意味している。

再び自転車に乗って木星を目指そうとした。
しかし外国の管理下の元に立ち入りが禁止となっていた。
そんなルールが一体何時作られたのだろうか?

仕方がなくぼくは土星を目指すことにした。


裏路地小劇場 第三幕 完
終幕へ続く……






今までテレビや写真と言った分厚いフィルター越しでしか
見たことの無かった地球。

地球とは青い色をした美しい星だとばかり思っていたが、
こんなにも赤茶けたモノだったとは思いもしなかった。

青かった地球はいったい何時失われたのだろうか……

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月の世界にいても空腹や喉の乾きは感じるものである。
そんな時どうするのかと言うと、
月に無数に廃棄された古びた電話ボックスから出前を注文するのである。

ボックス内には手垢まみれの電話帳が置いてあるので
出前をしてくれる店を探すのも簡単だし、
どういう訳か電話料金も、出前のお金も全て無料だった。

ちなみにポケットの中の携帯電話を手にとって見たが
地球外と言うこともあり圏外となっている。

ぼくは無惨に遺棄された墓石の様に立ち並ぶ数え切れない数の
錆び付き古びた電話ボックスたちを憐れむかの様に眺めていた。

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「おまちどうさま」
月の地平線の向こうから白い白衣を着た出前持ちが自転車で現れた。

出前持ちの顔は何処かで見た様な気がしたが、
顔が近づくほどに鉛筆で塗りつぶされた様に不明確な表情になり
彼が誰だったのか思い出す事が出来なかった。

彼は金属の箱からワンタンめんとチャーハンを取り出してぼくに手渡した。
テーブルも何も無いので地面に直置きだが気になる事はなかった。

出前持ちは何時もの様にバイオリンを取り出すと
ぼくの横で寂しげな曲を演奏し始めた。

ぼくは音楽に対しては全くの素人だが彼の演奏を聞いていると
出前持ちにしておくのがもったいないと思える腕前だった。

そして宇宙軒のラーメンは何となく懐かしい感じのする古い醤油ラーメンの味で、
チャーハンは焼豚ではなくハムだったが味はぼく好みのしっかりした味付けだった。

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顔の分からない出前持ちが一体どこから来るのだろうかと言う
現実的な問題はぼくには余り意味をなさなかった。
それよりも過去も未来もなくただ現在を生きているだけの自分が
特異な体験を目の当たりにしていると言う事実のみがこの上なく新鮮であり、
ある意味重要な事でもあった。

そんな非日常的場面に置いて、ぼくが出前持ちの男に自転車を借りようと言う行動に
出たのはある意味必然的な事なのかもしれない。

彼はこう言った。
「いいですとも!自転車をお貸ししましょう!何なら返さなくても良いですよ。
私はここでずっとバイオリンを弾き続けますから、そう、死ぬまで引き続けますとも……」


裏路地小劇場 そらへ 第二幕 完
第三幕へ続く……



カツカツカツ……

誰も見ていない遠くの路地で誰かが歩く音がこだまする。
そびえ立つか細い鉄塔からは路地を照し出す光が吐き出されるが、
そのほとんどは深い夜の息吹きにかき消され隅々までに行き届く事は無い。
静寂という闇の奏でる気配だけが強調されていた。

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「はやく家に帰りたい」
はるかなる高みから覗いている月明かりだけが帰路に急ぐ足元を照らしている。
いつもと同じ寂しい帰り道だ。ぼくは歩きながら月夜を見上げた。

冷たい夜風が頬を打ち、
何かがこの荒廃した命を救ってはくれないものかと物思いにふけた。

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黒い路地の何も見えない先を眺めても、
歩いてきた過去を振り替えって見ても、
暗が揺れている気配がするだけで何にも見えなかった。

見えるものは闇の中にポツリと存在する今この瞬間のこの場所だけだ。
ぼくはこの一分一秒をしのぐ為だけに存在する。

そんな時、今まで感じた事の無い突き刺す様な風が頬を打ち急ぐ歩みを停止させた。
そして、ぼくの目は其処に存在する一本の紐に釘付けとなった。

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その紐は空の彼方から垂れ下がっていた。
こんなに奇想天外な現実が目の前に訪れるとは考えても見なかった。

過去も未来においても何のへんてつの可能性すらも無いぼくにとって、
生きている上での最初で最後のチャンスかもしれない気がした。

手は無意識に紐を手繰り寄せ、非力なはずの身体を強いて登り始めた。
そう、渇いた砂漠に水が瞬時に溶け込むかの様に、
到底あり得ようも無いこの状況を全てぼくは受け入れたのだ。

大富豪というトランプゲームで言うところの革命と言うやつだろうか、
最も非力なカードが最強になり得る瞬間。
そんな淡い思いを抱いて登り続けた。

既に足元は民家の屋根どころか、
工場の汚染された煙を吐き出す突起物よりもはるかな高みまで来ていた。

ハア、ハアっと息も絶え絶えに我ながらよく体力が続くものだと思ったら、
本来であれば自分の力はここまで出るのだと言うことを思い出させた。

そのままぼくは果てしない時間を宇宙を目指すために消費続けたのだ。


裏路地小劇場 そらへ 第一幕 完
第二幕へ続く……













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