場末のひと


それが何を意味していようが、そこに時間が存在し、何かが起き、僅かながらに『ヒトトキ』を感じるものである・・・

2017/09123456789101112131415161718192021222324252627282930312017/11



上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
「もういっちまいましたかい?」

イヤミな皮肉を含んだ聞いたことのある喋り方だったが、
私の意識はほとんど現実とは切り離されていた。

「いいや、あともう少しだろう……」

骨董屋は椅子にのけぞるように深く座り直すと
大きなサングラスをかけた無精髭の男を見て身構えるように腕を組んだ。

男の隣には目玉の大きな背の高い女が亡霊の様に佇んでいる。

 005_20140223112539e60.jpg

「この患者はどこのテレビ局が買うんだ?」
骨董屋は異様な雰囲気を漂わせた二人を見つめた。

「さあ、ただテレビ局に対して特に危険な思想の持ち主なんで
高く売れるんじゃないですかね。

ここまできちんと規格をクリアした輩は久しぶりですよ。

こういうやつは早くから芽を摘んで置かないと危険ですから……

まあ、そのうち反テレビ組織向けの見せしめとして
放送作家が上手い役どころを与えて演出するんじゃないですか……」

 001_20140223110255a6c.jpg

サングラスの男は隣の目と頭の大きい女に手を引かれ部屋の中に入り込んだ。
どうやら目が見えないらしい……

「つくずく考えさせられるが、正しい目で物事を見ようとするほど
人間は現実という不条理を思い知らされおかしくなってしまう。
この患者がその最もたる例だろう……」

 002_2014022311025746b.jpg

「仕方がないですよ、
金も権力もないやつはお上の発信する情報に疑問を持つなんてありえない……

それがどんなに間違った情報であろうがテレビが正しいと言えば
そう思わなければいけない。

ほら、あの爆発した原発だってそうじゃないですか、

崩壊した原子力発電所がどんなに危険でも
安全って言えばそれを視聴者は信じなければならないんだ。

こいつのように空気を読めないやつは排除されるしか無い……

正しいとか、自由な思想ってやつは金と権力に比例して大きくなるんだ。

 007_20140228212403c20.jpg

どんなに汚い事をやっている奴でも
金と権力を持って綺麗事さえ言ってれば尊敬の対称となるんだから……
もっとも無茶苦茶な事を言っても重要なポジションにい続ける大物もいますがね……

コーヒーあっしにももらえますか?」

男はカップを受けとると口につけ苦いと小さく呟きながら砂糖を催促した。

「まあいずれにしても
一般視聴者が喜びそうな事件の出演者にでもなるんじゃないですかね……

ほらテレビ局の利権を犯そうと騒いでいる政治家どもいるじゃないですか?

テレビの電波は公共のものだから市場に開放せよとか、
税制上の優遇をなくせとか……

こいつら自分達のことは棚にあげて善人者ぶりやがって、

 003_201402231102583fd.jpg

適当な裏金問題を演出して、
こいつを告発者に仕立てあげ自殺でもさせれば面白いかも知れないですよ。

そして奴らの泣きっ面をテレビで放送したりして……、

いやあ、あっしは目が見えないのでアレですが本当にテレビッて面白いですよ!

これを真に受ける奴らがいると思うと一層笑いがとまりませんぜ!

 006_201402231132003fd.jpg

考えても見てくださいよ!

ほんのちょっとでも脚色や演出があったらどれだけ現実と違ってくるか?

奴ら分かっているふりして実際なんにも分かっちゃいない。

もっともテレビみている奴ら自身も

案外現実を偽って生きているのかも知れないですがね……」

骨董屋は不気味に笑う男を嫌悪の眼差しで見つめると
観念したかのようにため息を吐いた。

「世の中を動かし歴史を創り出しているのはテレビなのだから、
我々は黙って見ているしかないのだ……

 004_20140223110259155.jpg

また、
例えテレビを見なかったとしてもテレビを観た大多数の視聴者によって
世の中の仕組みは形造られ、その影響から逃れる事は出来ないのだ……

テレビ側の人間で、よくテレビを見なければ良いと言う輩がいるが、
それも確信犯的に視聴者を嘲っている言葉にすぎないのだ……」

骨董屋は椅子でだらしなく口を開け
よだれを垂らしている哀れな私に冷たい視線を送った……



裏路地小劇場 場末のひと 完








スポンサーサイト
 鐘の音が鳴りやんだようだが、
静寂が訪れた事に気づくのに少し時間がかかった。

身体が自分のものではないかのように激しく震えていたからだ。

しかも激しい揺さぶりによって、
今まで保たれていた心のバランスが著しく崩れさり、
思考の奥深くに刻み込まれている不安定な精神状態を強く呼び起こした。

 001_20140221204504bd7.jpg

途端に私の前進的な正の意識が否定され始めた。

ここにいることが、ここに来たことが、
本当に正しかったのか微かな疑問を感じた。

いったん疑問を感じると、それは少しずつ膨れ上がり、

今まで何度か引き返す機会があったにもかかわらず
何故ここまで来てしまったのだろうか?

本当にこんな所まで来てしまい
良かったのだろうか?

と自問自答が始まった……

 002_201402212045062ee.jpg

骨董屋は大きくため息を吐くとカルテを脇に置いて小さな飾り棚から
透明なカーブを描くガラス製の器を取り出した。

そして何かの実験をするかのようにガラス瓶を雪だるま状に重ねて
アルコールランプで暖め始めた。

「これはサイフォンです。コーヒーを入れる道具です」

 004_20140221210051fec.jpg

私の恐怖心を伴った震えとは裏腹に
骨董屋は落ち着いた仕草でコーヒーを作り始めた……

私はこれからどうなるのか聞きたくて仕方がなかった。
彼は一体私に何をしようと言うのだろうか……

こうして待っている間にも
負の感覚がじわじわと私を蝕んでいった……

骨董屋はそんな私の気持ちを察したかのように笑みを浮かべながら
カップにコーヒーを注いだ。

「まずはコーヒーで一息いれましょう。
私としては砂糖を入れずにブラックで飲むのをお薦めします……」

 007_20140221212006bef.jpg

骨董屋は上目使いでコーヒーを啜る私を観察するように見つめた。

私は震える手でカップを皿に置くと
心なし震えがおさまる気配を感じた……

次第に緊張がほぐれて行く……

それどころか暖かい空気に包まれているためか
非常に眠くなって来た。

何かおかしい……

私は自分自身の感情の大きな変化に違和感を感じた。

薬でも盛られたのではないかと思った……

 005_20140221210408c17.jpg

「何か少し変……」言いかけた言葉が途切れ、
無意識に大きなあくびが吐き出されるとまぶたが重くなった……

骨董屋はそんな私を見つめながら「大丈夫ですよ……」と小さく呟き、
頭を左右に振って大きく息を吐いた。

まどろみの中で背後にある扉が開く音が聞こえた。

 006_20140221211109edd.jpg

それは審判の下った私を処刑するための黄泉への入口なのかも知れない……


裏路地小劇場 場末のひと 第十幕 完
終幕へつづく……






 骨董屋は今まで私を診療してきた多くの医者とは
かなりの点で異なっている様に思えた。

明確な切り分けは分からないが
彼は私に非常に興味を持っている様だった。

私は小さく頷いて、
かつて場末のスナックのママに話聞かせたように
我々テレビの視聴者が情報操作されている事を、

それがどんなに虚構だと分かっていても
人は影響を受けてしまう事を話して最後にこう言った……

「私は一部の人間の権力や金儲けの為に
家族や一般の人々の思考が支配されるのが不安で仕方がないのです。

 001_201402192012482b2.jpg

考えても見てください。
多くの人が個性や自己を主張したとしても、
その奥底にある思想は全てテレビから送信された情報が根源にあるのです。

一皮剥けばみんな同じで、
ある種のカルト教団による洗脳に近い状態に陥っているのです。

 002_201402182106122dc.jpg

それは結局は、一部の人間の為の
都合のよい視聴者になっていることを意味しているのです。
本当に恐ろしいことです……」

私は一呼吸つくと喉の渇きを感じた。

それにしても、
ここまで真剣に私の話を聞いてくれた人間が過去いただろうか?

いいや、逆に彼の真摯さがここに来て薄気味悪くもあった。
それくらい私を診療してきた過去の者たちが酷かったのかも知れないが……

私は彼が何故そこまで真剣に
話を聞いているのか尋ねずにはいられなかった。

しかし、この空間を制圧する時の管理人が強圧的な咆哮でもって
私が言葉を放つのを阻止した。

何故なら柱時計が一斉に鐘を鳴らしたからだ。

 003_20140219201250ac4.jpg

それこそ一台でも結構な音量を響かせる柱時計だ。
それが部屋中を埋め尽くしているわけだから堪らなかった。

私は両耳を押さえこの苦痛から逃れようとした。

しかし音は耳からだけでなく身体中の毛穴から振動音を鳴り響かせ
私の骨髄の奥までも浸透したのだ。

時間にしてほんの数秒間であっただろうが、
それがどれだけ長大な時間に感じたことか……


裏路地小劇場 場末のひと 第八幕 完
第九幕へつづく……






 そこは深い混沌とした忌むべきものたちの住処へと続く
道筋であろうか、

のれんを潜り抜けた先にはロウソクの灯る長い廊下が
暗い闇の中へとつながっていた……

奥深くに進むに従って
何かが時を刻む様な無数の音色が漂い始めた。

 001_20140217213605af5.jpg

私は骨董屋の白衣を着た背中を眺めながら次第に
緊張感が高まるのを感じた。

そして右手にある螺旋状の急な階段を上り行き、目の前に立ち塞がる
襖をすーっと開け放つとその空間の放つ異様な光景に息を飲んだ。

部屋の中は無数の柱時計によって
隙間なく壁が埋め尽くされていたからだ。

いいや壁だけではない床の上も僅かな空間を残すだけで
無数の柱時計が墓標の様に乱立しカチカチカチと振り子を奏でながら
時を制圧していた。

 002_20140217213606d8f.jpg

まるで失われた過去の歴史を全て管理しているのではと思わせる
不可思議な感覚だった。

骨董屋はゆっくりと後ろを振り返り私に椅子を進めると問診し始めたのだ。

ダルマストーブの炎が柱時計の振り子音に踊らされているのか
ユラユラとした陰影が私を揺さぶりかける。

 004_20140217220722bfd.jpg

「あなたが長きに渡って抱えていた危機感。
きっとあなたが繊細な感覚の持ち主であるからこそ
感じてきた事に違いがありません。

既にカルテに書いてある事は確認済みですが、
お聞かせ願えないでしょうか?

あなたのその胸に秘めた思いを……」

骨董屋は今まで私を診療してきた多くの医者とはかなりの点で
異なっている様に思えた……


裏路地小劇場 場末のひと 第八幕 完
第九幕へつづく……





 石段温泉を出て階段を少し上ったところに
与謝野晶子の詩が刻まれた階段がある。

昔家族とここで記念写真を撮ったのをふと思い出した。

 001_201402091555281a2.jpg

楽しかった思い出が刹那な風の様によぎるが、短く深呼吸をし過去を振り切った。
そして石段を更に少し上った左手にある狭い路地へと入って行った。

ひと一人がかろうじで通れるような隙間道である。
このまま進んで行くと歩くのも不可能になるのではと訝しがったが、
思いがけずにスナックの看板が何軒か見えて来た……

すると、一軒だけまだ明かりの灯る銀映と言う看板のスナックが目に付いた……
赤い扉の向こう側は賑やかそうな声が微かに聞こえる。

 004_20140213202205ea0.jpg 

このまま夜明けまで店で過ごしてから帰ろうかとも思ったが、
店の脇道の奥深くから何か黒いもやの様なものが手招きしているように思えた。

そいつは私の意志などお構い無しに路地に引きずり込み、
深い深い塀に挟まれた苔むしたような隙間にある裏路地に入り込ませたのだ。

そういえば石段街からは大分離れただろうか……

既に自分が一体どの方角に向かって歩いているのか
全く分からなくなっていた。

そして、おぼろげな灯りの漏れる狭い角道を抜けると
寂れた闇の中に伊香保温泉裏町骨董店が丸い外灯を灯して佇んでいたのである。

 003_20140213201927ff3.jpg

私は宝でも探し当てたかのようにこの発見を喜びながらも、
この先には一体どんな不条理な出来事が待ち受けているのかと
一抹の不安を拭いきれずにいた……

ガチガチと震える手でガラス戸を開けようとするが
かじかんだ指先が上手く言うことを聞かない。

まるで何かがこの骨董屋に入るのを阻止するかの様である……

それでも何とかして扉を開けようと試みると
ようやく指先が扉の引き手のくぼみに引っ掛かった。

良し今だ!っと思った瞬間だった。
思いかけずに私の意思とは無関係に扉は独りでに開いたのだ。

「ようこそ伊香保温泉裏町骨董店へ!
ここまで来たからには相当な覚悟をなされたことでしょう。
既にカルテの方は拝見しております」

私はこの医者としか見えない白衣を着た骨董屋の店主に少々面食らった。
恐らく彼が私に気づいて扉を開けてくれたのだろう……

口髭を蓄えた白髪混じりの男はどこか人を安心させる和やかな表情を持っていた。
「さあ寒いでしょう。中にお入りください」

私は敷居をくぐり抜け店内を観察した。

やはり診療する場所ではなく骨董屋である。

店の中はオレンジ色のガス灯が揺らめき、壁には天狗の面や電話、
ホウロウ看板など古さだけでなく懐かしさを感じさせる数々の品物が配置され、
黒ずんだ箪笥や引き出しにガラス戸と言った家具が狭い路地を演出していた。

 005_2014021320561958d.jpg

私はそんな路地の片隅にある金魚模様の火鉢から
パチパチと炭火が弾ける音を聞くと古い郷愁を感じさせる温もりを感じた。

「紹介状の方ありますか?」
骨董の品々に目を奪われていた私は無言で頷くと紹介状を店主に手渡した。

「しかし随分と長く辛い思いをしたようですね。
でももう大丈夫です。あなたの病はここで確実に治りますよ。さあ奥の方へ……」

骨董屋はまるで医者のような素振りで私を奥の間へと招いたのだった……


裏路地小劇場 場末のひと 第七幕 完
第八幕につづく……





このサイトはAmazonアソシエイトを利用しています

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。