夜の目覚め


それが何を意味していようが、そこに時間が存在し、何かが起き、僅かながらに『ヒトトキ』を感じるものである・・・

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朝明けに染まる頃ふと目が覚めた。

気だるい感覚に襲われ、
血液が鉄の液体で満たされているかの様に身体がやけに重く感じた。

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それでも布団から起き上がり
おぼつかない足取りで洗面所の鏡の前に立ち尽くし、

自分の姿に見いった。

何故かひどく身体が重く感じた。
それもそのはずで身体中に鉄の管が増殖し、

ぼくの体重を増やしていたのだ。

しかも鉄の管は少しずつ増え続け立っていられない程の重さにまで到達すると、
ぼくを完全に飲み込み繭のような形を形成した。

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それから、
どれだけの月日が経過したのか分からないが、

ぼくは心地よさを感じながら長い眠りについていた。

しかも、
目覚めた時には鉄の繭はか細い絹糸の様に真っ白に変色し、
綿飴の様にチリチリに溶けさった。

こうして繭の外へ出た時には世界は真っ白い廃墟と化していた。

家と言う家が崩れ去り、野良ネコの気配すらなかった。

誰もいない世界だろうか?

それでも、
遠くの方に一軒定食屋を見つけた。

何気に腹の減っている自分に気づいた。

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店に入ると、
真っ白いオバチャンと数人の真っ白い客がいた。

何もかもが真っ白だが、
みんなが食べている定食だけが綺麗な彩りに溢れていた。

ぼくはオバチャンにレバニラ炒め定食を注文した。

お金は持っていなかったが、不思議と大丈夫な気がした。

真っ白い客たちは脇目も振らずに一心不乱に定食を食べていて、
余りの美味しさなのか涙を流すものまでいた。

腹が鳴った。

もう限界なほどに餓えた感覚が沸き上がり、
食べ物のにおいにヨダレがほとばしった。

同時に絶妙なタイミングでオバチャンがレバニラ炒め定食を運んできた。

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割り箸を口でくわえて割るとパキンっと音が弾けて、
味噌汁を啜った。

芳ばしい味噌の風味が広がり、身体中の渇きを潤して行く……

一呼吸して、
どんぶり飯を抱え、レバニラ炒めと共にメシを方張った。

「美味しい……」
ぼく好みに味付けされた料理は飢えや、
味覚だけを満たすのではなく安心して食事をすると言う行為をもたらした。

こんなに美味しい食事は久しぶりだと思った。

何故だか分からないが、
かつて味わった美味しい記憶がよみがえり、

それと共に楽しかった記憶の存在に気づいた。

給食で食べたカレーライスの味や、駄菓子屋で買った真っ赤なスモモ、
そして紙芝居屋で食べたくるくるパーの甘酸っぱい水飴……

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自然と涙が溢れるなか、
ぼくは全てのしがらみから解放されたのを悟った。

かつて感じていた深遠なる闇にまみれた未来や、
ただ息を吸い飢えをしのぐだけの現在、そして多くのツラい過去……

そんな日常的な感覚を意識すること無く、
僅かばかりの楽しい思い出を噛みしめることの出来るヒトトキ……

ぼくは、
何となしにホッと安堵のため息をこぼしたのだ……
 
裏路地小劇場 夜の目覚め 完








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この甘美なる狂気に従順なるぼくの意識が支配される一方で

何となくこのままでは行けないと警報が囁きかける。

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だが、このまま機械人形に取り込まれるのと、
現実の世界で闇に溶け込むのと一体何が違うのだろうか……

機械人形は一時の間も休むことをせずに光の柱に向かって歩き続けた。

正直、
この先どの様な事態に陥ろうとも、
それほど気にすることは無いのではと思えて来る……

しかし、
光の柱に近づくほど眩しさに耐え難くなってきた。

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もう限界だ。

目を閉じても、その眩しさはぼくを覆い、

ぼくの中に存在する闇をより色濃く強調した。

光は、ぼく自身を説得するかのように輝かしい理想を投げ掛ける。

「分かっているんだ……、そんなこと……、
世の中が正しくて、ぼく自身が間違っているのは重々承知しているんだ……」

何とかして、この光に満ちた苦境から解放されたかった。

その思いは鉄の管に緊縛された身がねじれ切れ、
血を滴らせようとも変わらなかった。

ぼくが、
例え光を望んだとして一体何が得られると言うのだろうか……

少しずつ、ほんの少しずつ身体を犠牲にして行くと、
ようやく僅かな隙間を作り上げる事が出来た。

これで顔と身体を少し背けることが出来る。

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目が少し楽にはなったが、
ぼんやりと眩んだ視力が回復するのには、もうしばらく時間が必要だった。

しかし、
どういう訳かぼくの視力はなかなか元に戻らなかった。

何故なら機械人形の足を形成する鉄の管の一部が、
ある物体を形造るかのように錯覚したからだ。

おぼろげであるが確かにその物体は表情を備えていた。

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そう、まるでこれからこの鉄の管に取り込まれる
ぼくの成りの果てであるかのように、

その物体は人間の顔の面影を残していた。

まだ目がおかしいのだろうか?

まあ、どちらでも構わないが、頑張って生きて来た結果がこれなのか……

多くを望まず、生きてさえいれば良いと思っていたが、
改めて客観的に自分自身を見つめてみると惨めに思えてならなかった。

せめて……

なんだろうか、
別に夢とか希望とか明確に意識を持って感じた訳ではないが、
お腹が空いて仕方がなかった。

「ごはん食べたいな……」

そう呟いた途端だった。

この鉄錆びの匂いが、
ぼくの中に沸き起こった空腹と言う名の生理的欲求と衝突した。

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途端に、
ここから逃げ出したい気持ちで一杯になった。

いいや、どちらかと言うともう一度だけで良いから
美味しい食事がしたくてたまらなかった。

身体中に張り巡らされた鉄の管がジリジリと肉体から抜ける嫌な感覚がしたが、
少しでも気を抜くとロボットの中に取り込まれそうだった。

こんなに痩せ細ばった身体のどこに力があったのだろうか?

ぼくは光の柱に取り込まれる寸前の所で地面に転げ落ちた。

身体中から引きちぎれた鉄の管がこぼれ落ちる様に覗いていたが、
そいつは意思を持っているかのようにぼくの体内に潜り込んで見えなくなった。

機械人形は光の柱の前で一端たちどまると、
ぼくの方を振り向いて見た。

何か会話でも始まるのかとも思ったが、
彼は何も言わずに眩い光にくるまれ空へ吸い込まれてしまった。

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ぼくは歩く気力もなくその場に座り込み

その光景を何時までも眺めていた……


裏路地小劇場 夜の目覚め 第五幕 完
次回 最終幕につづく……





意を決して飛び付いて見たものの、

止まることを知らない機械人形の足首にしがみつくのは
想像を遥かに越える難作業だった。

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身体中の血管が破裂するのではと思えるほどの力をこめても、
振り落とされ無いようにするだけで精一杯だった。

このままでは地面に落ち、
最悪の場合踏み潰されてしまうだろう……

グ、シャング
グ、シャング
グ、シャング

規則的なリズムの響くなか急速に力が失われて行く。

「ああ、もうだめだ……」
歯の隙間から滲み出た無意識な言葉と同時だった。

踏み潰されて無様に内蔵をぶちまける様が刹那に浮かび、
ぼくは深い闇の中へと落下した。

死と言う文字が目の前に浮かんだ。

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しかし、落下した衝撃は一行に訪れなかった。

そのかわりに一定のリズムで振動が身体中に響いてきた。

グ、シャング
グ、シャング
グ、シャング

その振動は紛れもなく、
今までぼくを悩ませていた耳鳴りや震えと同じものだった……

偶然なのか、
足首から垂れ下がっていた何本かの鉄の管が、

奇跡的にぼくの身体に巻き付き落下を防いだのだ。

しかし、
こんなにうまく鉄の管が身体に巻き付くものなのだろうか?

不思議に思いながら繊維がむき出しの巨体を一瞥し、
巻き付いていた鉄の管をずらしながら進行方向を見据える様に座り直した。

よく分からないが、
とにかく死は免れたと言うわけだ……

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機械人形は大きな高低差をもって激しく振動していた。

しかし、
それなりの時間が経過して慣れて来たのか、
緊張感もほぐれ身体中の力が抜け、それほど不快でも無かった。

しいて言えば、重労働をした後の気だるさを感じた。

グ、シャング
グ、シャング
グ、シャング

街灯に照らされた夜の景色が自然と流れ、
何時も美味しそうな匂いを漂わせていた定食屋の看板が
目尻のすみにそっと触れた。

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揺りかごの様な振動が強い麻薬のように作用したのか、
あるいは無垢の子供の頃の記憶を思い出させた為なのか
アクビが止めどなく漏れてきた。

ふと何かが蠢く気配を感じた。

まるで毒蛇のようにかまくびをもたげて鉄の管が脈動しながら動いている。

そいつは自分の意思を持っているかの様に、
ゆっくりと近づいて来ると、ぼくの身体に絡まって来た。

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しかも、
ぼくが抵抗しないのを良いことに、
遠慮も無く身体の中にまで進入してきたのだ。

だが、
無数の鉄の管が侵入して来ようとも、
痛みを感じる事もなく、それほど気になることはなかった。

ああ、顔に、指先に鉄の管が刺さる……

その冷たい異物が体内に進入してくるのを感じながら、
ぼくはこのまま機械人形の身体の一部として取り込まれて行くのを感じた……


裏路地小劇場 夜の目覚め 第四幕 完
次回 第五幕へ続く……






一体人類は何時、
このような巨大で力強い機械人形を作れる様になったのか?

ぼくが痩せ細ばるのに比べ余りに対照的である……

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一時の間、
何もかもを忘れその光景に見いっていた。

なま暖かく錆び臭い風が頬を揺らす……

建物をなぎ倒し、踏み固められた路地が世界の破滅を予期させた。

そんな路地を無数の機械人形が埋め尽くすように
整然と一定の間隔を保って行進している。

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ふと、ある疑問が生じた。

人類が機械人形を開発するだけならあり得るかも知れないが、

およそ、
町中を埋め尽くす程の機械人形を量産出来るなんてあり得ないと思った……

子供の頃みたプラモデルの箱に画かれたエスエフの世界である。

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なかなか爽快な光景で、
ある意味ぼくをこの不毛な世界から抜け出させてくれるのではと思えた。

しかし、
見ればみるほど繊細な加工の施された造形であるのがうかがえた。

機械人形は身体中を無数の鉄の管を束ねた筋繊維で造られていた。

しかも、その身体は生物の様に始終脈動し、
遥か遠くに輝く光の柱に向かって歩いているようだった。

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ぼくはしばらくの間、
映画のスクリーンの向こう側の様な光景を

かたちのない期待を込めて眺めていた。

何故なら、ぼくの様な不毛な大地でしか生きられなかった人間にとって、
その世界観を崩し去るきっかけに他ならないからだ。

あるがままに、目の前の光景を受け入れいよう。

僅かでも理性が残っている内に行動に移すべきだ。

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ぼくは意を決すると裸足のまま外に出て
鉄臭い巨大な機械人形の足に飛び付いたのだ……


裏路地小劇場 夜の目覚め 第三幕 完
第四幕へつづく……








夜の目覚めも長い間続くと症状も深くなり、

末期症状なのか耳鳴りや、
震えが自分の身体の内側から出て来るのでなく、

まるで本当に騒音や地響きが外から迫って来ているのではと思える程だった。

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耳鳴りと地響きのリアリティーさが増すに従って
昼間の日常生活が正常におくれなくなり、

駄目な方へと流れて行った。

不思議とこれ以上生活が悪くなることはないと思っていたが、
奈落の底と言うものは限りが全くないらしい……

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体調を壊し、ほんの数日仕事を休んだだけで、
ぼくは職を失い生きる目処さえ立たなくなった……

ここから、出て行かねばならないのも時間の問題だろう。

もう触れればたちどころに身体中の血管がはち切れ発狂してしまいそうだった……

そんなある日、
耳鳴りと地響きにとうとう耐えかねたぼくは、

けだるい身体に無理を強いて起き上がると部屋の窓を開け放ち、

その歪んだ瞳で夜の世界を精一杯の憎しみを込めて睨み付けてやった。

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しかし、
その瞬間の余りに思いがけない光景に我が目を疑った。

グ、シャング

グ、シャング

グ、シャング

まるで巨大なプレス機で鋼鉄を撃ち抜く振動音。

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何と言おうか、
ぼくが耳鳴りと疑っていなかった騒音と震えの正体が、

こうも現実的な思考からかけ離れたものであろうとは
思いもよらなかったのだ。

何故なら、ぼくの耳鳴りに同期して、
その錆び臭い巨大な鉄の塊の奏でるリズムが

路地を覆うように歩く巨大な機械仕掛けの造形物、

そう、
いわゆるロボットと言うやつだろうか、

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その重く硬い重機のような足が踏み鳴らす騒音に等しかったのだ……


裏路地小劇場 夜の目覚め 第二幕 完
次回 第三幕へ つづく……





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