裏路地小劇場 場末のひと 第七幕


それが何を意味していようが、そこに時間が存在し、何かが起き、僅かながらに『ヒトトキ』を感じるものである・・・

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 石段温泉を出て階段を少し上ったところに
与謝野晶子の詩が刻まれた階段がある。

昔家族とここで記念写真を撮ったのをふと思い出した。

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楽しかった思い出が刹那な風の様によぎるが、短く深呼吸をし過去を振り切った。
そして石段を更に少し上った左手にある狭い路地へと入って行った。

ひと一人がかろうじで通れるような隙間道である。
このまま進んで行くと歩くのも不可能になるのではと訝しがったが、
思いがけずにスナックの看板が何軒か見えて来た……

すると、一軒だけまだ明かりの灯る銀映と言う看板のスナックが目に付いた……
赤い扉の向こう側は賑やかそうな声が微かに聞こえる。

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このまま夜明けまで店で過ごしてから帰ろうかとも思ったが、
店の脇道の奥深くから何か黒いもやの様なものが手招きしているように思えた。

そいつは私の意志などお構い無しに路地に引きずり込み、
深い深い塀に挟まれた苔むしたような隙間にある裏路地に入り込ませたのだ。

そういえば石段街からは大分離れただろうか……

既に自分が一体どの方角に向かって歩いているのか
全く分からなくなっていた。

そして、おぼろげな灯りの漏れる狭い角道を抜けると
寂れた闇の中に伊香保温泉裏町骨董店が丸い外灯を灯して佇んでいたのである。

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私は宝でも探し当てたかのようにこの発見を喜びながらも、
この先には一体どんな不条理な出来事が待ち受けているのかと
一抹の不安を拭いきれずにいた……

ガチガチと震える手でガラス戸を開けようとするが
かじかんだ指先が上手く言うことを聞かない。

まるで何かがこの骨董屋に入るのを阻止するかの様である……

それでも何とかして扉を開けようと試みると
ようやく指先が扉の引き手のくぼみに引っ掛かった。

良し今だ!っと思った瞬間だった。
思いかけずに私の意思とは無関係に扉は独りでに開いたのだ。

「ようこそ伊香保温泉裏町骨董店へ!
ここまで来たからには相当な覚悟をなされたことでしょう。
既にカルテの方は拝見しております」

私はこの医者としか見えない白衣を着た骨董屋の店主に少々面食らった。
恐らく彼が私に気づいて扉を開けてくれたのだろう……

口髭を蓄えた白髪混じりの男はどこか人を安心させる和やかな表情を持っていた。
「さあ寒いでしょう。中にお入りください」

私は敷居をくぐり抜け店内を観察した。

やはり診療する場所ではなく骨董屋である。

店の中はオレンジ色のガス灯が揺らめき、壁には天狗の面や電話、
ホウロウ看板など古さだけでなく懐かしさを感じさせる数々の品物が配置され、
黒ずんだ箪笥や引き出しにガラス戸と言った家具が狭い路地を演出していた。

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私はそんな路地の片隅にある金魚模様の火鉢から
パチパチと炭火が弾ける音を聞くと古い郷愁を感じさせる温もりを感じた。

「紹介状の方ありますか?」
骨董の品々に目を奪われていた私は無言で頷くと紹介状を店主に手渡した。

「しかし随分と長く辛い思いをしたようですね。
でももう大丈夫です。あなたの病はここで確実に治りますよ。さあ奥の方へ……」

骨董屋はまるで医者のような素振りで私を奥の間へと招いたのだった……


裏路地小劇場 場末のひと 第七幕 完
第八幕につづく……





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